尿量が多い・少ない(多尿・乏尿)の原因と検査
尿量が多い・少ない(多尿・乏尿)について
尿量の増減は、体内の水分バランスを保つ“腎臓の働き”を反映する重要なサインです。
成人の1日の尿量は1,000〜1,500mLが一般的で、2,500mL以上が多尿、400mL未満が乏尿とされます。
排尿回数の目安としては、昼間:4~8回、夜間は0~1回(高齢者の方は1~2回でも一般的)とされております。
多尿・乏尿は、腎臓・心臓・ホルモン・電解質・尿路のトラブルなど、幅広い疾患と関連するため、原因の見極めが大切です。
ここでは、主な疾患と検査・治療について詳しく解説します。
尿量が多い(多尿)で考えられる疾患
糖尿病
概要
糖尿病では、血液中のブドウ糖が増えることで腎臓が「糖を尿に排出しよう」と働き、これに大量の水分が引き込まれるため多尿になります。
このため、強い口渇 → 水分摂取量増加 → 多尿という悪循環が生じます。
主な症状
- 喉の渇き
- 頻回の排尿
- 体重減少
- 疲れやすい、集中力低下
- 食欲亢進または低下
検査
- 血糖値・HbA1c(過去1〜2か月の平均血糖)
- 尿糖・尿ケトン
- 腎機能(クレアチニン、尿蛋白)
治療
- 食事療法(糖質量の調節、食べる順番改善など)
- 運動療法
- 薬物療法(GLP-1、SGLT2阻害薬、メトホルミンなど)
- 糖尿病性腎症の早期発見のため定期的な尿検査
尿崩症
概要
尿崩症は「糖尿病とは全く異なる疾患」で、抗利尿ホルモン(ADH)の異常 → 腎臓が水分を保持できない → 大量の薄い尿が出る
という特徴があります。1日に 3〜10L以上 の尿が出ることもあります。
原因
- 中枢性(脳の下垂体・視床下部の問題)
- 腎性(腎臓がホルモンに反応しない)
- 薬剤性(リチウムなど)
主な症状
- 大量の尿
- 強い口渇
- 夜間多尿
- 脱水症状(頭痛、倦怠感)
検査
- 血中ナトリウム
- 血清・尿浸透圧
- 下垂体MRI
治療
- 中枢性:デスモプレシンによるホルモン補充
- 腎性:原因薬剤の中止、食事療法
- 脱水への点滴
高カルシウム血症
概要
血中カルシウムが高いと、腎臓での水分再吸収が低下し、多尿になります。
原因には以下があります。
- 副甲状腺ホルモンの過剰
- がん(骨転移・造血系)
- サプリメント(ビタミンDの過剰摂取)
- 薬剤(サイアザイド系)
主な症状
- 多尿・口渇
- 便秘
- 倦怠感
- 食欲不振
- 不整脈(重度)
検査
- 血清カルシウム
- PTH(副甲状腺ホルモン)
- 腎機能
- 腹部エコーやCT
治療
- ビスホスホネート薬
- 副甲状腺手術(原発性副甲状腺機能亢進症)
- 原因疾患の治療
薬剤・生活習慣
概要
利尿薬、カフェイン、アルコールは尿量を増やす代表的な要因です。
治療
- 薬剤の調整(医師判断)
- 飲酒・カフェインのコントロール
- 水分摂取の適正化
尿量が少ない(乏尿)で考えられる疾患
急性腎障害
背景・メカニズム
急激に腎機能が低下し、尿が作れなくなる状態です。
原因は多岐にわたります。
- 腎前性(腎臓に血液が届かない)
脱水、心不全、ショックなど - 腎性(腎臓そのものの障害)
薬剤性腎障害、腎炎 - 腎後性(尿路の閉塞)
結石、前立腺肥大症、腫瘍
症状
- 尿量低下
- 全身のむくみ
- 息苦しさ
- 吐き気
- 疲労感
- 高カリウム血症による不整脈
検査
- 血液(クレアチニン、BUN、電解質)
- 尿検査(尿沈渣)
- 腎エコー
- 薬剤歴の確認
治療
- 薬剤の中止
- 利尿薬
- 腎炎の場合はステロイド
- 必要に応じて透析
心不全(心臓性乏尿)
概要
心臓のポンプ機能が低下すると腎臓への血流が減り、尿が作りにくくなります。
夜間に尿が増える“夜間頻尿”と対照的に、日中は尿が少なくなることがあります。
症状
- 息切れ
- むくみ
- 体重増加
- 疲れやすい
検査
- 心電図
- 心エコー(EFなど)
- BNP
- 胸部X線
治療
- 利尿薬
- 心機能改善薬(ACE阻害薬、β遮断薬など)
- 塩分制限
- 体重管理
脱水
概要
発熱、嘔吐、下痢、激しい運動などで体内の水分が不足すると、腎臓が水分を節約し、尿量が減少します。
症状
- 口の渇き
- めまい
- 全身倦怠感
- 脈拍上昇
- 皮膚の乾燥
治療
- 経口補水
- 点滴
- 原因疾患(胃腸炎、感染症)の治療
尿路閉塞(前立腺肥大症・尿路結石・腫瘍)
概要
尿の通り道(腎盂→尿管→膀胱→尿道)がふさがれ、尿が排出できない状態です。片側閉塞では尿量が保たれますが、両側閉塞では乏尿〜無尿になります。
症状
- 下腹部の張り
- 側腹部痛(結石の場合)
- 頻尿・排尿痛(感染症合併時)
検査
- 腹部エコー
- CT
- 尿検査
治療
- 結石の排出促進・破砕
- 前立腺肥大症治療薬
- 尿道カテーテル
- 腫瘍の場合は外科・内科治療
尿量に関するよくある質問(Q&A)
尿量が増えたり減ったりするのはストレスが原因ですか?
ストレスによって自律神経が乱れると、膀胱の働きが変化し、尿の回数(頻尿・尿意切迫)が増えることはあります。
しかし、尿量そのものが大きく増減する場合は別の原因を疑う必要があります。
- 多尿 → 糖尿病、尿崩症、ホルモン異常など
- 乏尿 → 脱水、腎機能障害、心不全など
ストレスだけで「1日尿量が極端に変化」することは少ないため、数日続く場合は受診がおすすめです。
水を飲む量が少し多いだけでも多尿になりますか?
水分を一時的に多く飲んだ日は尿量が増えますが、数日~数週間継続して多尿が続く場合は別の要因が考えられます。
- 喉が異常に渇いてたくさん飲んでしまう → 糖尿病
- 水を飲んでいないのに尿が多い → 尿崩症(腎臓で水が再吸収されない)
「2,500mL以上の尿が連日続く場合」は多尿とされ、医療機関での評価が必要です。
トイレが近い=多尿ですか?
頻尿と多尿は全く異なる状態です。
- 頻尿 … 回数が多い(量は少ないことが多い)
- 多尿 … 1日の尿量そのものが多い
たとえば膀胱炎や過活動膀胱では回数が増えますが、1回あたりの尿量は少量です。
「量と回数のどちらが変化しているか」で原因が大きく変わるため、注意が必要です。
夕方になると尿が減るのは正常ですか?
日内リズムによって尿量が変動するのは一般的で、活動量が多い時間帯(特に午後〜夕方)は一時的に減ることがあります。
しかし、以下のような状態では注意が必要です。
- 夕方以降、ほとんど尿が出ない
- むくみ、息苦しさがある
- 水分摂取が十分なのに少ない
この場合は、脱水・腎機能の低下・心不全などが隠れていることがあります。
市販のお茶やコーヒーで多尿になりますか?
カフェインには利尿作用があるため、以下の飲料で尿量が増えることがあります。
- 緑茶・紅茶
- コーヒー
- エナジードリンク
- 一部の健康茶(利尿作用をうたうもの)
これは一時的なものですが、極端に増える場合は水分バランスが崩れるため、摂りすぎには注意が必要です。
夜に尿が多いのは病気ですか?
夜間に尿が増える(夜間多尿)は、以下の要因が関係します。
- 加齢による抗利尿ホルモンの低下
- 就寝前の飲み過ぎ
- 塩分過多の食事
- 心不全による体内の水分移動
- 睡眠時無呼吸症候群
- 糖尿病
特に 夜3回以上の排尿が続く場合 は、生活習慣の見直しや医療機関での検査が必要です。
尿量が少ないのにむくむのは大丈夫ですか?
尿量が減りながら、足や顔がむくむ場合は注意が必要です。
代表的な原因:
- 腎機能の低下(腎不全)・・・体の水分を排出できずむくみが出る
- 心不全・・・心臓のポンプ力低下で血液がうっ血し、むくみや尿量低下に
- 肝機能低下・低栄養
この組み合わせは重大なサインとなるため、早めの受診が推奨されます。
尿量を自宅で測る方法はありますか?
次の方法で簡単に測ることができます。
- 計量カップ付きの尿器を使う
- 市販の尿量計(ポータブルタイプ)を使用する
- トイレに置いて使うタイプの「簡易尿量測定カップ」も便利です
測定したら、以下をメモ
- 1回の尿量
- 時間帯
- 1日の合計値
診察時に提出すると、医師が原因を判断するうえで非常に役立ちます。
まとめ
尿量の変化は、腎臓、心臓、ホルモン、尿路といった多くの臓器の状態を反映する重要なサインです。原因がわからないまま放置すると、腎機能悪化や脱水、心不全などにつながることもあるため、早めの診察が安心につながります。
尿量に不安がある場合は、些細なことでもお気軽にご相談ください。


